FileMaker GoはiPadアプリの作り方を変える!

ファイルメーカー日本法人社長のビル・エプリング氏(左)と米国本社システムエンジニアのマット・オーデル氏(右)。エプリング氏が手にしているiPadでは日本語化された「FileMaker Go」が動作している

 10月29日、ファイルメーカーは東京・秋葉原で開発者向けイベント「FileMakerカンファレンス2010」を開催した。

 入場無料のイベントで、会場には昨年を上回る約1000人のユーザーが集まった。オープニングセッションを始めとしてほぼすべてのセッションが満席となるほどの盛況ぶりだった。

 会場で特に話題を集めたのが11月に実施される「FileMaker Go」の最新アップデート。新たに日本語を始めとした6言語に対応する。FileMaker GoはFileMaker Pro/Serverのデータベースを3G回線などを通して、iPadやiPhoneから直接参照・編集できるアプリケーションで、7月からリリースが始まっている。

 FileMakerのデータベースを外出先でそのまま使えるという利点はもちろんだが、企業パンフや商品カタログをiPadで展開する際に、iPadアプリを作るためのプログラミングの知識がなくてもGUIベースで簡単に作れるという利点もある。画像やグラフを盛り込んだリッチな機能を短時間で実現できる点も注目されている理由だ。

 今回はそんなFileMaker Goの魅力に関して日本法人社長のビル・エプリング(Bill Epling)氏と、米国本社のシステムエンジニアを務めるマット・オーデル(Matt O'Dell)氏の両名に聞くことができた。

訂正とお詫び:掲載時「有料のイベント」という記載がありましたが、ビジネスセッション含め、すべて無料のイベントとなったという旨、指摘を受けましたので修正いたします(11月2日)。


FileMaker Goの出だしには非常に満足

── FileMaker Goの発表から2ヵ月たちました。反響などについて聞かせてください。

FileMaker Goへの関心の高さには非常に満足しているとエプリング氏

エプリング 「大変ポジティブです。AppStoreでの売れ行きがよく、とても満足しています。顧客やプレスの反応もよく、AppStoreのレビューでも高い支持を得られていると感じます。AppStoreの評価は、新しいバージョンが出るたびにリセットされますから、バージョンアップが適切なものであったかが評価されます。バージョンアップ後に評価が上がった点からも、ユーザーの支持を実感できています」

── その支持の理由はどこにあると感じていますか?

エプリング 「やはり“思い通りに動く”という点だと思います。すでにFileMakerのソリューションを活用しているユーザーなら、デスクトップで使うのと同じ環境がすぐに整う。FileMaker Proの体感をiPadやiPhone上でそのまま生かせるのです。この点には我々の期待を超えた感触を得ていますね。

 また、データベースソフトで重要なのは、データを壊さないで使えるかどうかですが、この信頼性の高さも好評です」

── どのようなユーザーがFileMaker Proを導入し、活用しているのでしょうか?

オーデル氏はカンファレンスのオープニングセッションで、FileMaker Proで作成した旅行記を紹介しながらさまざまなデモを行った

オーデル 「SOHOからエンタープライズまで非常に多彩です。個人でiPad向けのアプリケーションを作りたいという層から、エンタープライズレベルまで使うことができる敷居の広さも特徴といえるでしょう。最近では、どこで買えるのかという問い合わせも増えており、アプリケーションを開発するデベロッパーからは、実際にテストしてみたいというオファーも多く受けています。

 AppStore経由での販売になるので、ユーザーの細かなプロファイルを知ることは中々難しいのですが、営業担当者が独自に現場の声を吸い上げるなど、いろいろ探っている段階です。顧客の声を聞いてみると、想定していたよりもいろいろな使い方ができると分かってきました」

エプリング 「FileMakerのソリューションは、多種多様な分野に浸透していますが、それをモバイルで生かしたいという潜在的な欲求があるように感じています。

 例えばビジネス、教育、医療などいろいろな分野での応用が考えられますね。

 同時に私は市場が徐々にシフトしていくと考えています。今のところは既存のFileMakerのソリューションをモバイルで活用できるか、試しているという段階です。しかし、将来的にはモバイルのソリューションを効果的に活用したいと思う顧客がまず最初にFileMaker Goを使い、そこからFileMakerの世界に入っていくケースも生まれてくるでしょう。“モバイルの生産性を高める”という新しい市場を切り開いていけるのではないかと考えています」

── 現段階での成功事例があれば教えてください。

エプリング 「リリースからそれほど時期が経っていないこともあり、フルデプロイメントの事例は出しにくいのですが、テストケースとして評価してもらっている例は増えています。例えば、名古屋の病院では100台のiPadが導入され、FileMaker Goのテストが始まっていますね」

オーデル 「ビルの話にもありましたが、iPad用のアプリケーションを手軽に開発するための環境として、FileMaker Goを使う人が増えています。例えば、展示会のショーケースなどでアンケートを収集するためのアプリケーションはこれまでオブジェクトCなどを使って作るしかなかった。しかしFileMaker Goを使えばもっと手軽にできるでしょう」

iPad専用アプリを作るより圧倒的にカンタン

── 講演ではBMWのバイクカタログをFileMaker Goで開発した事例が出ていました。週末の作業で短期間にできたそうですが。iPadアプリを手軽かつ低コストに開発できるという点も売りになりそうです。

オーデル 「iPadが発売された際、メルセデスベンツはショールームでカタログとして使用するiPadアプリを大変な労力と時間をかけて開発しました。開発には数ヵ月を要し、10万ドルほどのコストを掛けたと試算しています。しかし、私の同僚は似たようなカタログを週末のたった1~2日で作ってしまいました。彼の場合は、趣味で興味のあるBMWのバイクを題材にしたのですが」

カンファレンスのオープニングセッションで紹介されたBMWバイクのカタログ

会場の展示から

 カンファレンス会場ではDBPowers、寿商会、Juppo、バルーンヘルプといった開発会社がFileMaker Goの応用例を紹介していた。ローカルにデータベースを保存し、デモしているケースが多かった。開発者はスピーディーな開発が可能である点を口をそろえて強調する。画像表示などが若干時間がかかる面はあったが、レイアウトの自由度が高く、GUIベースでカンタンに開発できる点もあり、とかく手間がかかりがちなiPadアプリを簡単に作り、配布できる手段として新しい可能性を提供しそうだ。

FileMaker Goをヘアカタログに応用した例
会社案内に応用した例。動画などを含めたコンテンツをウェブサイトの制作より短期間に実現した
スキャナーと組み合わせて、来場者リストを作るデモも

── iPadやiPhoneといったiOSデバイス向けソフトを開発する際には、ファイルメーカーの親会社がアップルであるというメリットも生かせますか?

オーデル 「ベネフィットという点では、成功事例を共有し合えるなど、いい関係が築けていると思いますよ」

エプリング 「アップルは根本的にプロダクトカンパニーで、ユーザーのフィードバックを大切にしながらファンを増やしていこうと考えています。会社とユーザーの間の愛を育む姿勢と言いましょうか、ファイルメーカーにもそういう精神が宿っています」

── FileMaker Goでは、基本的にローカルにデータそのものをコピーするか、通信回線からライブでデータベースにアクセスする仕組みになっています。Syncを使いたいという要望はないでしょうか?

オーデル 「検討はしています。ただよりニーズが高い“データベースにライブアクセスしたい”という要望を実現するために、FileMaker Serverと組み合わせたリモート接続のサポートをまず最初に目指しました。もちろんスクリプトなどを書けばデータをシンクロさせることができますが、理想を言えばSyncも実現したいですね。日本では地下鉄で移動されるケースが多いと思います。私もニューヨークに住んでいて、地下鉄をよく使いますが、通信がつながらない環境ではやはりSyncが有効である点は実感していますから」

── Androidデバイスへの対応に関してはどう考えていますか?

エプリング 「将来のことは言えませんが、マーケットに関しては常に慎重に見ています。まずは、iPadやiPhoneにおけるリーダーシップを確立し、大切に伸ばしていきたいと考えていますが、市場のニーズは的確に捉えていきたいと思います」

日本は非常に重要なマーケット

── FileMaker Goの話を中心に伺ってきましたが、デスクトップで使用するFileMaker Proについても聞きたいと思います。まずは日本のオフィスで根強く使われているExcelに対する優位性について改めて確認したいのですが。

Stop the Spredsheetを広めたいと話すオーデル氏

オーデル 「まずは、我々の標語“Stop the Spredsheet”を流行らせたいですね。データ共有ができるFileMakerなら、Excelの苦労から開放される。この点を強調したいですね」

エプリング 「Excelで問題になるのは、バージョンコントロールです。Excelはとりあえず使えるということで、確かに広く使われています。ソート機能なども用意されており、データベースらしく使える製品ですが、相互の長所を生かしながら両方使っていただく形がいいと思いますが、(データベースと同じものだと考えることは)危険だと思います」

── FileMaker 11のグラフ機能には力が入っていますね。

オーデル 「ありがとうございます。FileMaker 11では新機能としてグラフやチャートを簡単に作成できる機能を入れたのですが、最新のバージョンでは、ネイティブ化でさらなる高速化を図っています」

FileMaker Pro11を利用した作例

── スクリプティングも従来バージョンから続く特徴ですが、面白い例があれば教えてください。

オーデル 「そうですね。盲点というか面白いところを突いてきたなと最近感じたのは“Dial the Phone”でしょうか。電話を掛ける機能ですね。モデムが入っていた時代には当たり前のものだったのですが、埋もれていたこういう機能を改めてクローズアップしている点が新鮮でした」

── 日本のマーケットはファイルメーカーにとって重要だというおっしゃっていますが。

エプリング氏は米国本社の上級副社長・CFO(Chief Finacial Officer)も兼任しており、日本と米国を行き来する生活を送っている。月の1/3を日本で過ごすという

エプリング 「日本の市場は米国に次いで世界で2番目に大きく、ファイルメーカーの売上の1/4を占めています。これはヨーロッパ全体と同じ大きさです。ファイルメーカーは日本において17年の歴史を持っていますが、ローカライズにも力を入れていきたいと考えています。日本法人では前任の宮本さんがいい組織を作ってくれたこともあり、市場における強固なポジショニングができていると感じています」

── FileMaker Goが売れている地域も同じような状況でしょうか。

エプリング 「基本的にはFileMaker ProとFileMaker Goの動きは連動しています。しかし例外というか、海賊版が多い地域、例えば南ヨーロッパなどは、FileMaker Goがより多く売れる傾向が出てきたりしますね」

── 最後になりましたが、読者に一番伝えたいことを簡潔にいただけますか?

エプリング 「日本はとても重要なマーケットなので、とても明るい展望を持って将来を見ています。プラットフォームにおいて高いリーダーシップを持っていますし、今後も開発に対しては十分な投資を続けていきます。いい製品を作り続けたいですね」

オーデル 「FileMaker Goに関しては、デベロッパーコミュニティーの盛り上がりに興奮しています。厚い支持がでてきています。単純なアップデートではなく、新しいものとして革新的な製品が出せたことを大変喜んでいます」

── ありがとうございました。

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