これは使える、Cocoa版GIMP「SeaShore」

 本連載「Apple Geeks」は、Apple製ハードウェア/ソフトウェア、またこれらの中核をなすOS X/iOSに関する解説をあますことなくお贈りする連載です(連載目次はこちら)。

 UNIX使い向けをはじめ、Apple関連テクノロジー情報を知りつくしたいユーザーに役立つ情報を提供します。

なぜ「SeaShore」がイイのか

 「GIMP」(ギンプ)が登場してはや十数年。LinuxなどUNIX系OSにおけるその存在感は周知のところで、デスクトップ向けディストリビューションではだいぶ前から「GIMP入ってる」が当たり前になった。カラーマネジメントをサポートするなど、当初は不得手だとされていた部分も補完され、もはやPhotoshopと比べて云々という時期は過ぎている。日常的に「GIMP.app」(OS X用バイナリーパッケージ、バンドル形式採用により起動が容易)を利用している、というOS Xユーザーも多いはずだ。

 もし読者の中にGIMPを”使わず嫌い”のOS Xユーザーがいるとすれば、Photoshopで満足しているから、使い慣れたプラグインを手放したくないからといった理由に加えて、「X Window Systemへの依存によるUIの違和感」があるのではなかろうか。

「GIMP.app」は「X Window System」に依存するため、Aqua環境とは異質な部分が残ってしまう

 X11.appのウィンドウマネージャー「Xquartz」は、AquaデスクトップにX Window Sytemの画面を透過表示し、Aquaライクなウィンドウフレームを提供することでCocoa/Carbonアプリとの違和感解消を図っているソフトだ。しかし、ことえりやATOKなどの日本語入力システムは使えず、編集画面へのドラッグ&ドロップもサポートされない。いかんせん、「なんちゃってOS Xアプリ」の枠を超えることはできないのだ。

 そこで注目したいのが、オープンソースソフトの「SeaShore」。GIMPとは一心同体、というより不即不離に近い関係のウィジェットライブラリー「GTK+」でUIを似せたりするのではなく、Cocoaを使用することで、Aquaネイティブアプリケーションとして動作するのが最大の違いだ。編集画面へのドラッグ&ドロップにも対応、さらにはあんなコトやこんなコトも……というわけで、SeaShoreの機能について解説してみよう。

レイヤーをサポートするなど、GIMP譲りの画像編集機能を備えている「SeaShore」
「SeaShore」のツールバー設定画面。アイコンを見れば、どのような機能が用意されているか見当がつくはず

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機能は限定的なれど

 SeaShoreは、簡単にいうと「Cocoaに移植された機能限定版GIMP」だ。保存可能なファイルフォーマットはGIMP標準のXCFとGIF/JPEG/JPEG 2000/PNG/TIFFのわずか6種類、PSDやEPSは開くことすらできない。

 ツール類もGIMPに比べると貧弱だ。矩形/楕円選択ツール、ブラシや消しゴムなど基本的なものはあるものの、自動切り抜き(SIOX)や色選択といった気の利いた機能はない。レイヤーはサポートされているが、ベジェ曲線は使えない。GIMP用のプラグインが動作するわけでも、マクロにあたる”Scheme”ベースのスクリプト言語「Script-Fu」を利用した自動化がサポートされているわけでもない。とにかく機能重視であれば、やはりGIMP.appを選択したほうがいい。

 GIMPになくてSeaShoreにサポートされている機能は、Mac OS Xネイティブアプリならではの「Core Image」がサポートされていることだ。[Selection]メニュー以下には、ガウシアンブラーやガラスディストーションなど十数種類のフィルターが用意されている。Core ImageはGPUを生かした高速な処理がウリであり、それらフィルターについてもダイアログ上のスライダーを動かせば、ただちに処理を画面上で確認できる。

Core Imagesのほぼリアルタイムなフィルター機能を活用できることは大きなメリット

 X Window Systemに依存しないことも、もちろん大きなメリットだ。普段Aqua環境で利用しているフォントをそのまま利用できるのはもちろん、テキストボックスに直接日本語テキストを入力することが可能になる。第一、X11.appとワンセットで起動するという煩わしさがない。

ことえりなどの日本語入力システムで文字列を直接入力できることもメリットの1つ

SeaShoreの現実的な活用方法

 前述のとおり、SeaShoreはGIMP譲りの機能とCocoaアプリとしての利便性は備えているものの、本格的なグラフィックソフトとしてバリバリ使えるかというと疑問符が付く。現バージョンは安定性に欠けるところもあり、全面的な移行はお勧めしかねるのが実情だ。

 とはいえ、OS標準のビューワーソフト「Preview.app」に匹敵する起動速度を備え、Core Imagesの豊富なフィルター機能を備えていることはやはり魅力だ。スクリーンショットのプライバシーに関する部分を修正したり、グレイスケールに変換したりといった、Core Imagesのフィルターで足りてしまう処理には大変便利に使える。

 以下に紹介する2つのシェルスクリプトは、いわば「SeaShoreの現実的な活用方法」だ。サービス機能に対応しないため、Automatorを利用したアプリケーション間の連携は難しいが、SeaShoreらしい画像編集には役立つと思う。なお、実行するときには「chmod +x ~」としてファイルに実行権限を与えたうえで、/usr/local/binなどパスの通ったディレクトリーにコピーしてほしい。

スクリーンショット作成→SeaShoreで編集

 このシェルスクリプトを実行すると、[Command]+[SHIFT]+[4]キーを押したときと同様、ユーザーにキャプチャ対象のウィンドウを指定させ、それをSeaShoreで開いてくれる。画像データは標準入出力またはクリップボード経由で転送したいところだが、「pbpaste」コマンドがPNG画像を扱えないため、一時ファイルを作成するという冴えない方法を利用している。しかし、きちんと目的は果たしてくれるはずだ。

#!/bin/shscreencapture -i /var/tmp/captemp.pngopen -a SeaShore /var/tmp/captemp.png

BMPでもPICTでもドンとこい

 SeaShoreがサポートする画像フォーマットは少ないため、編集対象がそもそも限定されている。そこで、OS Xに用意されている画像ハンドリングコマンド「sips」を使い、入力したファイルをPNGに変換することで、SeaShoreで開けるようにしている。BMPやPICT、PSDファイルも、このシェルスクリプトを使えばOKだ。

#!/bin/shsips -s format png $1 --out /var/tmp/out.pngopen -a SeaShore /var/tmp/out.png

筆者紹介──海上忍

 ITジャーナリスト・コラムニスト。アップル製品のほか、UNIX系OSやオープンソースソフトウェアを得意分野とする。現役のNEXTSTEP 3.3Jユーザーにして大のデジタルガジェット好き。近著には「改訂版 Mac OS X ターミナルコマンド ポケットリファレンス」(技術評論社刊、)など。


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